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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1282号 判決 1949年12月19日

控訴人 被告人 朴龍述 文奉石

弁護人 田代春雄

検察官 南館金松関与

主文

原判決を破棄する。

本件を岐阜地方裁判所御嵩支部に差し戻す。

理由

弁護人田代春雄が各被告人のために提出した控訴の趣意は後記の通りであつてこれに対し検察官は本件控訴は理由のないものとしてその棄却を求めた。

仍て

職権を以て調査するに本件訴訟記録によれば本件起訴に係る事実は被告人両名が昭和二十四年八月十九日午後四時半頃岐阜縣可児郡伏見町山本吉三郎こと崔上元方において金銭貸借のことから憤激し相互に暴行を加えて因て各自その相手方に傷害を与えたというにあつて、刑法第二百四条を適用すべき事件即ち長期三年を超ゆる懲役にあたる所謂強制弁護事件として刑事訴訟法第二百八十九条により弁護人なくしては開廷できない場合であつたので原審はその開廷前被告人等から貧困のため弁護人の選任ができない旨の回答を受け弁護士田代春雄を被告人両名の弁護人に選任した上同弁護人の出頭を得て開廷し以て本件の審理判決をしたものであることが認められる。

然るところ本件起訴事実は右に摘記したやうにその形式的記載自体によつても被告人両名の利害相反する場合であることが明かであるといい得るのみならず、本件事案の内容を観察しても被告人等は相互に暴行を加えて因つて各自その相手方に傷害を与えたことはその争わぬところであるが、その紛争の発端なりその暴行の程度、態様なりにおいて被告人等の司法警察員、検察官に対する各供述や原審公判廷における供述は互に一致しておらず、その一方に有利なことは必然に他方に不利となる関係にあることが認められ、その利害相反する場合であることが明瞭である。

如上の場合に同一の弁護人を附しても被告人両名のために充分にその弁護権を行使し得ないことは条理上当然であつて、実質的に原審における公判審理の全般に亘り不法に弁護権を制限したのと異ならず、右の措置が訴訟手続の法令に違反することは刑事訴訟規則第二十九条第二項の反面解釈からも疑を容れる余地がなく、且つ右の違法は被告人等に異議があると否とに拘らず公判手続を無効ならしめ延いて判決に影響を及ぼすこと明かであるから各論旨に対する判断を待つ迄もなく原判決は刑事訴訟法第三百七十九条第三百九十七条によつて破棄を免れず本件各控訴はその理由あるものといわなければならない。

而して右に説示したように原審の公判手続が無効である結果、更に本件について第一審としての審理を要し直に当審において判決すべきではないから刑事訴訟法第四百条本文に則り本件を原審岐阜地方裁判所御嵩支部に差し戻すべきものと認め主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 薄井大介 裁判官 荻本亮逸 裁判官 山田市平)

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